提出が延期されていた日本航空の更生計画案が東京地方裁判所へ提出されました。日本航空のウェブサイトに「更生計画案の内容のポイント」が書かれたファイルがアップされています。(下記のリンク)
http://www.jal.co.jp/other/info2010_0831.html
日本航空が発表した資料によりますと、事業計画のポイントと書かれたページには、以下の文章が書かれています。(以下、引用。但し、各ポイントの番号は筆者がつけています)
「事業計画のポイント」
1 非効率機材の早期退役による機種数の削減と,新鋭中小型機材の導入によるダウンサイジング,不採算路線からの大胆な撤退により,赤字路線を全廃いたします。
2 空港コスト構造改革,施設改革,人事賃金制度・福利厚生制度の見直し等を行い,これまでにない徹底した費用削減を行うとともに固定費の変動費化に努めます。また,ホテル事業の売却等,子会社の売却・清算を行い,経営資源を航空運送事業へ集中します。
3 早期退職・子会社売却等により,JAL グループの人員削減をより推進し,平成21年度末の48,714 人から平成22年度末には約32,600人とします。
4 国内旅客事業は,多頻度・小型化を図り羽田線を中心としたネットワークを維持し,収益性の向上に努めます。国際旅客事業は,他航空会社との二者間提携の活用を含めてネットワークの強化を図ります。特にアメリカン航空とはATI 認可を申請し,太平洋路線の収益の強化を目指します。
5 グループ経営方針の共有化を確実に行える,より効率的・戦略的な組織を構築します。また,グループ損益実体把握の早期化,数値責任の明確化により,計画を確実に実行できる経営管理体制を構築します。
6 リーマンショックのような金融危機・新型インフルエンザ発生等,イベントリスクの発生時に即応できる体制等を整備することにより,リスク耐性のある経営を実現します。
7 初年度から営業黒字化・債務超過脱却による早期再生を目指します。(引用 終り)
一方、前原国土交通大臣は「日本航空の更生計画案提出に際しての国土交通大臣コメント」の中で、「日本航空の再生を図る上では、日本航空において、人員削減計画をはじめ、更生計画案に盛り込まれた施策を着実に実施し、目標とされる業績を達成すべく努力することが重要であると認識している。 」とコメントしています。
これらの発表を読む限り、「立派な内容であり、この更生計画案を絵に描いた餅ではなく実現し、更生計画案に書かれている7年での分割弁済を実現するしかないですね。」としか言えません。更生計画を実現すれば、誰も文句を言わないでしょうが、「本当に更生計画が実現できるか。」の一点に尽きます。企業再生支援機構と日本航空のお手並み拝見です。
上記資料によりますと、「JAL グループは,平成22 年3 月末時点での連結概算ベースで,9,592 億円の債務超過に陥っており,今後,更生計画に基づく権利変更,および機構による3,500 億円の出資がなされ,平成23 年3 月末までの事業利益等を計上することによって,平成23 年3 月末時点において債務超過を解消することを計画している。また,今後の事業利益等の積み上げにより,平成25 年3月末時点において1,800 億円超の純資産を確保することを計画しており,財務基盤の安定化を図る。なお,イベントリスク等に対する耐性強化の観点から,今後,追加的な資本増強策等の諸施策を検討する」とされています。また、「厚遇との批判も強かった役員・従業員への福利厚生他の各種待遇(いわゆるフリンジ・ベネフィット)の見直しを行う。法定または世間一般の水準とすることを基本として,航空事業者として必要最小限の水準および範囲となるよう,徹底した見直しを実施する。」とも書かれています。
この公式発表には含まれていませんが、売上・利益などの損益計画は(新聞などの報道によりますと)、「売上高は10年3月期の1兆4948億円から15年3月期には1兆3221億円に縮小するが、営業損益は1337億円の赤字から1331億円の黒字に回復させる。」と報じられてます。その上、2012年末までに株式を上場させる計画とも報じられています。
では、この様な内容の更生計画にも拘わらず、主要取引金融機関が、新規融資の再開に同意していないのは、なぜでしょうか?あくまでも推測にしかすぎませんが、恐らく更生計画の内容が甘く、蓋然性が低いと判断しているからではないでしょうか。今回の更生計画で出された弁済率12.5%という数字は、決して高くありません。債権者は大きな痛手を受けています。
上記「事業計画のポイント」の1から4は、経営の効率化によるコスト削減策です。一方で、国際線は、安い人件費などを武器にした格安航空会社が急増しており、競争は激化する一方です。格安航空会社でどの程度の安全性が確保されているかは別の論点でここでは触れませんが(先日、テレビで放映していた立席飛行機には仰天しました。冗談ではないかと…。リスクが高い分安いのでしょう。)、この様に、競争が激化している国際線からの撤退は十分なのか疑問が残ります。蓋然性の高い更生計画を立てるならば、国際線の大幅縮小を検討するべきだと思います。
日本航空は、過去、何度も経営合理化が叫ばれましたが、中途半端な対応で、人件費や機材の高コスト体質は改善されませんでした。一時は、私的整理で公的支援による甘い支援を期待しましたが、法的整理となりました。私が最初から会社更生手続きが最適と書き続けてきたのは、リストラを断行し会社を再生させるためには、日本航空の場合、私的整理のような不透明で生ぬるいものでは徹底した構造改革など不可能ではないかと考えたからです。前述のように、金融支援や経営合理化だけでなく、利益が確保できない事業分野からの撤退が十分なのかがポイントです。
一方で、個人的な感想ですが、仕事柄、航空機によく乗りますが、会社更生手続き後の日本航空の現場は、変わってきたと感じます。つい先日、羽田から関空へ日本航空の競合相手に乗りましたが、朝一のフライトにも拘わらず、前の晩の整備不良が朝見つかったとの理由で、出発が30分遅れました。当然、予定の乗り継ぎには乗れず、お客様のところへ遅刻してしまいました。その日の帰りは、日本航空で関空から羽田に乗りましたが、時間通りに運行されました。翌週、前回の失敗に懲りたので、同じく朝一の羽田発、関空行きの日本航空便に乗ったところ、定時に出発し予定よりも10分早く着き、帰りの伊丹発、羽田着の日本航空も定時に着きました。先月同じことが、福岡発、羽田着でも起きており、定時性の確保という点では、最近は日本航空を信頼しています。これは日本航空の現場の方の意識が変わり、定時に運行させるべく努力をしているからだと思います。コア事業部門で働く方の意識が変わることが、企業再生で重要な点です。現場が頑張り士気があがっているのですから、企業再生の処方箋を書く部門の失敗は許されないことです。
最後に気になる点ですが、「更生計画案の内容のポイント」には、以下の記述があります。
「航空事業は,SARS,新型インフルエンザ,リーマンショックをはじめとする金融危機といったイベントリスクに晒されている業種であるため,リスク発生時の体制構築として,イベントリスク兆候の発見に努め,システム開発を行い,運航体制の見直しや緊急的な固定費削減策を機動的に発動する体制等を整備する。なお,イベントリスクが発生する場合,管財人である機構は,更生手続後も,企業再生支援委員会に諮りつつ,株式会社企業再生支援機構法の下で可能な範囲で,事業継続や義務の履行に必要な追加の財務上の支援(出資・融資・保証)を含む諸施策を実行し,予期せぬイベントリスクに即応できる強固な経営体質を構築するよう引き続き支援する所存である。」とのくだりです。文字通り、イベントリスク発生に限定された「事業継続や義務の履行に必要な追加の財務上の支援(出資・融資・保証)を含む諸施策」の実行であるならばとにかく、企業再生支援機構や政府が見通しの甘い更生計画や構造改革の不徹底による赤字が原因のものまで、(日本航空を)丸抱えで救済するならば、以前の日本航空の「困れば政府が何とかする」という企業体質と何も変わりません。競争がますます激化する航空業界(特に国際線)で生き残ることは難しいでしょう。更生計画が甘いため計画が達成できす、追加の公的資金が投入されるようならば、今度は別の意見を書くかもしれません。


by kachitas
二次破綻が起きかねない日本航…